2019年11月9日(土) 天気 晴れ

035ELLY18420_TP_V

今はどこの乗馬施設でも,大抵乗る前に

「危険性を理解しています。何が起こっても最終的には自己責任です。」

といった内容の誓約書にサインをする。

何故こういうことをするのかと言えば,(乗馬に限らないけれど)事故というのは,どんなに気をつけ防ごうと努力していても完全に防げるものではなく,その場合に言いがかりをつけられて「おまえたちのせいだ」「責任をとれ」と訴えられては困るからだ。

仕方ないのだろうとは思うけれど,
こういう風に予防線を張らなければならない現実が,
何だか悲しくなってしまう。




何故かとても調子のよかった今日。
ジャンピングの練習を続ける。
障害間は2歩で,

クロス → 垂直 → オクサー

と跳んでいく。

真ん中の垂直とオクサーの高さが少し上げられる。
オクサー障害の幅が少し広くなっていることに気付いたけれど,そこまで恐怖は感じなかった。

踏切が合うように注意をしながら駈歩で障害に向かう。
上手く合うと,本当に気持ちよく跳べる。

高さも幅も70cmくらいのオクサー障害を跳んだ。
ふわーっと浮遊する新しい感覚を覚え,びっくりした。今までにない感覚だったから。
滞空時間が少し長くなると,今までの障害とはちょっと違った感じがする。
上手く踏切が合って動きに乗れれば,着地の際もそんなに衝撃は来ないけれど,少しズレて変な着地になると,結構衝撃が大きく来る。
これは腰を痛める人がいるわけだと,体感してみて初めて納得した。

ああ,なんか,ほんの少しだけ,新しい場所にやってきたかも?

一瞬でも知らなかった感覚を味わうと,今までいた所の先の世界を垣間見たような気がして,そんなつもりはなくても浮かれてしまうのだと思う。

同じ障害を,それから2回くらいは跳んだと思う。
着地で少しバランスを崩したりすることはあったけれど体勢を立て直せたので,「クロス → 垂直 → オクサー」の更にその先,「円を描いて馬場中央に入り,対角線上にある垂直障害を跳ぶ」まで行ったりする。

同じコースをもう1度通ろうとしたとき,それは起こった。

レッスンの様子をスマホで撮影していたので,後から見直して原因が明白にわかるのだけれど,まあ,一番最初の原因は,「踏み切りが遠かった」。
合わなくても向かえば跳ぶお馬さんなので,最初のクロスバー障害を遠いままジャンプ,2つ目の垂直障害も遠くからジャンプすることになり,肢がぶつかり障害物が落下。その際,わたしが少しバランスを崩し,たぶんそこで停止すれば落ちることはなかったのだけれど,そのままオクサー障害を跳んでしまったので,さすがに持ちこたえられずに馬の右側に落馬してしまった。

あ,と思ったときには,空中に投げ出されていた。
身体の右半分から地面に衝突して,馬場に転がる。
砂の上で上半身を起こし,動こうとすると声がかかった。


指導員さん 「そのままでいいです!」

地面に両手をついて,肩で大きく呼吸をしていると,指導員さんが傍にやってきた。

指導員さん 「大丈夫ですか。どこか痛い所ないですか」

小夏 「肋骨が痛いです……」

指導員さん 「折れたかな」


でも大きく呼吸をくり返しているうちに右肋骨の痛みは消えた。
感覚を研ぎ澄ませて,身体のどこにどんな異変があるのかを探っていく。小さな異変でも,見逃してはいけないと思った。それを感知できるのは自分だけなのだ。


小夏 「あの,最後,どうなってましたか。動画……」

指導員さん 「あ,ああ,そうだ。動画」


馬場にへたり込んだまま,スマホに手を伸ばして撮ったばかりの動画を再生。
自分の身に何が起こったのか,ものすごくよくわかる。


指導員さん 「遠かったんですよね。それで馬が大きく跳んだんですが,動きについていけてない」

小夏 「……(`・ω・´;)」


ちなみに乗っていたお馬さんは,動画を見たり話をしたりしている間,逃げるでもなく,わたしを落としたその場に立ち尽くしていた。

立ち上がってから身体を色んな方向にひねったりして動かしてみたけれど,響く所はなかったので,ヒビも含めて骨折はなしと判断。
顎がズキズキするのと,ヘルメットはあったけれど一応地面と接触した頭のうっすらした痛みが心配だけれど,あとは特に異変はない。

馬に乗り直し,愛撫。上半身を倒して馬の首にしがみつき,たてがみに顔をうずめて不安をリリースした。

指導員さんは,さすがに最後のオクサーを外したところから再挑戦させてくれた。
左手前でクロスと垂直を跳ぶ。無意識の恐怖心があるのか,何となく向かい方や跳び方がおかしい。深呼吸をして心を落ち着け,それから2回ほどやって感覚を取り戻す。
取り戻したところで,さっきまでオクサーがあった所に3つ目の垂直障害がつくられる。3つの障害もクリア。
その先,クロス → 垂直 → 垂直 のあと,円を描いて馬場対角線上の垂直障害を跳ぶ。

今まで,このお馬さんは踏切が合わなくても跳んでくれるので,明らかに合わないとわかっても「まあいいや」とそのままにしていた。
でも,今後はもう,そうはいかないのだと思った。
合わないと,跳びづらかったり障害物を落としたりするだけでなく,危険なのだ。
意識が甘いままでは怪我をする。

指導員さんもその点がわかるので,その後踏切が合わないとちょっと厳しめの注意が入った。


指導員さん 「今合わなかったの跳ぶ前にわかった?」

小夏 「わかりました! (わたしの)反応が鈍くて」

指導員さん 「脚での(馬の)反応が鈍かったら鞭使っていいから! そのために鞭渡してるんだから」


……乗馬の場合,主語を省略すると馬の話と人間の話が混ざって変なことになる(´∀`;)

その後,最後にもう一度コースを回って終了。
障害の間が離れていると,最初がダメでも最後は合わせることも可能。

レッスンを終え,手綱を伸ばし,常歩でゆるゆると馬場を歩かせて整理運動。
お馬さんありがとう。変な乗り方しちゃってごめんね。お疲れさま(*´ -`)(´- `*)


洗い場に馬を連れていき,いつも通り手入れをする。

前からそうだけれど,落馬したあとって,場の空気がいつもと少し違ったようになる。

わたしは何故か「気を使うモード」になって,笑ってみせたり饒舌になったりして「平気だよ」アピールをし始める。
指導員さんのほうも,深刻になり過ぎてトラウマになられても困るから,ときには冗談を交えて笑顔を見せたりしながら,努めて軽い空気感を出してくる。

お互いに無意識に協力して和やかな場をつくり出し,日常の均衡を崩さないように,神経を張り巡らせているような状況だ。

それでも本当のことを言えば,わたしは凹んでいるし(下手なのはわかっていたけれど,落馬という目に見えるかたちで結果が出るとかなり凹む),衝撃を受けた身体に少し不安もある。

そして指導員さんは,自分が責められることはないとわかっていても,お客が落馬すると,どこか雰囲気がしょんぼりする。誓約書があるから責任を追及されることはないし,「ごめんなさい」と言うのもおかしな話なので何も言ってこないけれど,そのことを気にしているのがわかる。


わたしは,こういう世界が,すごく好きだなと思った。

自分に起こったことを人の所為にして怒りをぶつけて相手を貶めたり,あるいは「自分は何も悪くない」と開き直って微塵も心を痛めなかったりするような世界ではなく。

「平気だよ,気にしないで」と言えて,「防ぐために何かできたのではないか」と考えられる心を持った世界。

いつか,あんな誓約書がなくても馬に乗れるくらい,人間が成熟した生き物になれる日が来たらいいなと思う。


いつも応援ありがとうございます♪


・馬術ランキング
にほんブログ村 アウトドアブログ 乗馬・馬術へ
にほんブログ村