2021年12月11日(土) 天気 晴れ
ついに馬場1級の試験の日。
この日は珍しく開始が午後からだったので、いつもよりゆっくり目に家を出る。クラブの他にはどこにも寄らないので、家から正装していく。
白襟のシャツに、白キュロットに、ベルト、ホワイトタイとシルバーのタイピン。髪をまとめて、化粧をして。
馬に乗るまでには時間があるので(そして馬装やお手入れで汚れるので)、練習で使っているソフトシェル素材のフード付きジャケットを羽織っていった。ヘルメットとロングブーツと白グローブと拍車とジャケットは、会場で身につけるために持参する。
乗馬を始めて、競技会に出たばかりの頃は、この正装も落ち着かなくて、何となく照れてしまって、あんまりきっちりと身につけていたくなかった。
今では慣れて、普通にそれができるようになった。
乗馬の技術はそんなに向上していないけれど、この世界に少しは慣れてきたのだと思う。
少し早く到着してしまったので、馬を出すには早過ぎて、しばらく先に行われている他の競技を見ていた。
色んなお馬さんに乗った色んな人が出てきて、とても面白い。
試験開始を目前に控えて、わたしは自分の心境がよく分からなかった。
自信はないけれど、恐れてはいない。どうでもいいとは思っていないけれど、今さらどうにかしようとも思っていない。
敢えて何も考えないようにしているような、そんな感じ。心を無にして、いつも通り、やれることをやるだけ。
この心理状態がいいのかどうかも、自分では分からなかった。
時間が過ぎ、そろそろ準備をしたほうがいいので厩舎に向かう。
ここ2ヶ月くらい、ずっと一緒に練習してきたお馬さん。
今日の調子はどうかな。練習のときみたいに反応よく素直に動いてくれるといいな。
ところが、予想外のことが起こった。
馬房の入り口で馬の名を呼んだけれど、後ろを向いたまま、こちらへ来ない。いつもはすぐにやってくるのに。
仕方ないので、無口を手に馬房に入る。馬の顔に無口を近づけたところで、いつもと違う反応がはっきりと起こった。
耳を後ろに伏せ、明らかに無口を避けて顔を背けたのだ。何度やっても同じ反応で、無口を避けるので着けられない。
馬の「嫌です。やりたくありません」という意思表示があまりにも鮮明で、びっくりしてしまった。
今までこんなこと1度もなかったのに、何で!? 競技会だから? 今日が競技会だって分かるの? 何で競技会嫌なの?
この時点で、ちょっと嫌な予感が胸によぎる。
馬の様子がいつもと違う……。
しかもどちらかと言うと、ネガティブなほうに違ってる……。
困っていると、以前このお馬さんによく乗っていたベテラン会員のお姉さんが通りかかり、馬をなだめて無口を装着してくれた。
あ、ありがとうございます( ノД`)…
嫌な予感というのも、認めるのは良くないような気がして、わたしは無視してポジティブに振る舞いながら馬装をした。
だって、だって、不安に感じたところで、しょうがないんだもの(>_<)!
馬装は普通にされていたように思う。わたしは「頑張ろうね~」と声をかけていたけれど、もしかしたら馬に嫌われちゃったかなと、内心わずかな不安を覚えていた。
いやいやいや、ダメダメダメ!
そういう不安ダメ!
馬装を終えても、まだ少し乗るには早かったので、馬を馬房に残し、舞台となるドレッサージュ馬場を見に行く。馬場整備が終わっていなかったので、ラチの長さを測って真っ直ぐにしたり、アルファベットの表示を置いたり、準備を手伝った。
その後、インドアの馬場が待機馬場になっていたので、お馬さんを連れて行き、騎乗する。
乗ってしまえば普通に動いてはくれる。長く常歩をして、その後速歩で運動。巻き乗りをしたりする。
待機馬場には他の人馬がたくさん居て混み合っているので、思うように運動できない。
駈歩をさせたら、発進はするものの、最初からやや暴走気味で、不安を覚えた。
何だか馬の落ち着きがない。
どうしよう。
何というか、少しの刺激でパーンと走っていってしまう。
拍車を外そうかと考えたけれど、馬場馬術の正装に拍車は必須だったことを思い出し、外すことを断念する。
一頭、他所から来た馬に相性の良くない馬がいて、近づくとお互いに不測の急な動きをするので気を遣った。相手の馬に乗った選手も馬を必死になだめていた。
待機馬場で怪我なんてしていられない。
指導員さんはいたけれど、あまり練習内容の指示はしてくれなかったので、わたしが自主的に馬を動かしていた。怪我できないと思うと、必然的に運動内容は控えめになって、満足のいく調整のようなことは全然できなかった。
馬場の試合が開始され、出番が近づき、馬に乗ったままドレッサージュ馬場の前に移動する。
お馬さんはずっと落ち着きがなくて、1ヶ所でじっとしていられず、更に顔を何度も上げてハミを外そうと試みていた。
こういうものかと思っていたけれど、他の待機している馬はみんな静かに立っていたので、これはわたし(の乗ってる馬)のほうがおかしいぞと察する。
……これを落ち着かせるのって、どうすればいいの?(´д`|||)
正直、わたしの浅い知識と経験からでは成す術がなく、ただ馬に乗っていることしかできなかった。
そうこうしているうちに、わたしの出番の前の人馬が演技を始めた。馬場3級の経路を踏んでいる。懐かしいな。
わたしは本馬場の手前にあるスペースで、指導員さんの指示に従い、準備運動をすることになった。
速歩で巻き乗りをして、手前を替えて。
駈歩を出したら暴走気味になり、やっぱりどうも上手くいかない。見ていた指導員さんがおかしいと感じたらしく、わたしは一度馬から降りて馬装の点検からすることに。
腹帯がゆるゆるで驚かれた。わたしも力一杯締めたつもりだったので、こんなに緩くなっていたことに驚いた。さらに鐙がいつもより長いことを指摘された。「いつもと同じ長さでやらないとダメだよ」って。
出場直前にこんなことをしていることに、もう既に半分失格しているような気分になる。
馬に乗り直して、また準備運動。さっきよりもコントロールはしやすくなった。ただ、駈歩が速くなってしまうことは変わらず、発進の時点で、そっとお腹に触れるくらいソフトな扶助でやればどうにかなるくらいの感触だった。
前の出番の方が戻ってきて、わたしは入場前に何度か速歩で巻き乗りをしてから手を上げた(「準備できました」の合図)。審判員がベルを鳴らし、試験が開始される。
速歩で入場。
停止、不動、敬礼。
美しくはないけれど、まあ普通。
その後速歩発進し、左に曲がり、斜め手前変換、歩度を伸ばす……の部分で、とんでもないことが起こった。
歩度を伸ばすために脚で圧迫すると、馬が急に暴れるように駈歩を始めたのだ。びっくりして悲鳴を上げてしまった。今まで一度だってこんなことはなかったのに!
ショックだし馬の動きが怖いし、これで試験は終わったと落胆もしたけれど、いやそれよりもここは駈歩するところじゃないと必死に馬を抑えた。
ギリギリの状態でどうにか速歩になり、速歩での8の字の部分に突入。全然綺麗じゃないけれど、ひたすら無難に終えられるよう祈りながら通過。
そして右手前から斜め手前変換で歩度を伸ばす部分で、またもやジタバタと駈歩になりかける馬。
今日歩度を伸ばす部分全然ダメだね! いつも得意な部分だったのにさ! 練習のときよりも下手な演技になってしまっているとこに泣きたい気持ちになった。
常歩パート。もはや暴走させないで常歩を継続させることだけに神経を遣いながら経路を進む。
どうにか常歩で続けられ、C地点からの駈歩発進。ほんの軽い扶助でピンポイントで発進したのはいいけれど、馬が爆走してしまう。
指導員さんは馬場の外から「身体起こして!」と叫んでおり(馬が暴走して危ないときによく言うアドバイス)、完全に出来の悪いレッスンの状態。
いや、これまで、どんなレッスンのときだって、ここまで酷くなかったよ。
15mの輪乗りはその爆走駈歩で行った。
わたし今日よくできてる部分全然ないよね?(´;ω;`)
斜め手前変換&シンプルチェンジ。
爆走しているのでものすごい止めづらいのだけれど、全力で試みたので、不完全ではあるけれど一応かたちにはなった。
再び15mの輪乗り。
正直に言って、コントロールの効きづらい暴走気味の馬に乗っているのは、身の危険を感じて怖かった。棄権しようかと一瞬迷ったくらいだ。
これがレッスンなら、わたしは有無を言わさず一回止めて仕切り直したと思うけれど、経路の「停止」ではない部分で停止するのは避けたいので継続して乗っていた。
斜め手前変換&シンプルチェンジ。
1回目よりはマシかな。
そのまま駈歩を続けて、10mの半輪乗り、そして反対駈歩。爆走している割にはスムーズに出来た気がする。
速歩から駈歩発進(この頃にはもう駈歩出すのが怖かった)。半輪乗りして反対駈歩。
精度はめちゃくちゃ低いし優雅さのかけらもないけれど、できていなくはない。
最後の駈歩発進から歩度を伸ばす部分。もはや歩度を満足に伸ばせるほどの心の余裕はなく、申し訳程度に伸ばす。
半輪乗りして中央線に入り、最高に止めづらい馬を全力で停止させ、敬礼。
指導員さんが馬場の外で拍手をしてくれ、わたしは馬を愛撫して、試験が終了した。
本当に酷い演技だった。
最初から最後まで、馬に引っ張られていたような感じ。
1つだけ誇れることがあるとすれば、最初の大きなミスにより「この試験は終わった……」と感じても、馬が暴走気味で中断してしまいたくなっても、最後まで諦めずに精一杯経路を回ってきたこと。
馬場の外に出ると、指導員さんは、「馬が試合の空気を感じ取って入れ込んでたからね」と言っていた。「でも経路全部回れたね」と。
確かにお馬さんの様子はいつもと違っていた。でも、仕方ないよね。
「生き物と出場する」って、そういうことだ。
馬は悪くないし、わたしも悪くないし、他の誰かや何かが悪いわけでもない。誰も悪くない。
でも洗い場に馬を繋いで馬具を外し、馬の首に抱きついて泣きそうになった。
本当はもっと上手くやりたかったんだよ。ごめんね。
馬は元気そうで、わたしを鼻で突っついておやつを要求したりしていた。可愛いやつだった。
合否はこの時点で分からないけれど、もしわたしが審判員なら、「うーん……今回は残念だけど、もうちょっと頑張ろう!」という判断を下すだろうと思った。
不合格でもその結果は受け入れる。むしろその結果を受け止めるための準備を今からしなければ。
お馬さんを馬房に戻し、すぐにクラブハウスには戻らずに、しばらくうつむいて、洗い場周辺の掃き掃除などをしていた。
時折「試合どうだった?」とわたしに訊ねてくる人がいて、その度に笑いながら「やらかしちゃいました」と答えていた。答える度に内心では泣きたくなった。
全然知らないおじいさんにも訊ねられたので、そう答えたら、おじいさんは「みんなそうだよ。でもいいじゃない。楽しんで乗れたら」と言ってくれて、妙に心に残った。
掃除を終え、のろのろとクラブハウスで着替えをする。結果を受け止めるのが嫌なので、ものすごい時間をかけていたような気がする。
着替え終えてソファに座り、「今日わたしより下手だった人っているのかな……」などと考えていたら、また泣けてきた。
これからどうしよう。
わたし、もうこれ以上伸びないんじゃないかな。直すべき点はいくつもあるけど、ずっと取り組んでても直ってないのは、もう能力的に限界だからなんじゃないかな。
頑張りが足りないって言われるかもしれないけど、頑張ってるよ。
もう1回試験受ける?
同じ馬で?
違う馬で?
どの馬で?
受けないとしたら、どうするの?
脱力して途方に暮れていたけれど、この後筆記試験を受けなければならないので、あんまり遅くなると事務の人にも悪いからと頑張って立ち上がり、受付に行った。
実技で不合格だと分かっている人間に、筆記試験を受けさせるスタッフも、あまりいい気持ちではないだろうなと、気の毒に思いながら答案用紙を受け取り、問題を解いていく。
内容は、普段の乗馬レッスンでは聞かないようなことも多かったので(でもテキストと日馬連の例規集には載っている)そこそこ難しくはあった。それでも問題数は少ないし、まったく知らない内容というわけでもなかったので、合格ラインを超える。
受付の人が実技試験の採点表を持ってきた。
結果が載っている採点表。
わたしは、わたしに不合格を告げねばならないこのスタッフの気持ちを少しでも軽くしようと、「わたしは平気だよ」という意味の笑顔を浮かべて待っていた。
目の前に差し出された採点表を見て、わたしの作り笑顔は吹っ飛んだ。
「ギリギリ合格です(^^)」と告げられ、思わず「え! 大丈夫だったんですか!?Σ(゜Д゜;)」と叫んでしまった。
結果は50.789%
合格ラインの50%をわずかに超えている。
誰よりも自分が1番信じられなかった。
しばらく無言で採点表を見つめていた。
時々、スポーツ選手が優勝したのにあんまり喜んでいない顔をしているという光景を見ることがあるけれど、正にそんな感じの気分だった。
合格してよかったと思う。でも、こんなに嬉しくない合格は初めてだ。
不合格になりたかったわけじゃないし、審判の決定にケチをつけるような、おこがましい真似をしてはいけないとも思う。
だけど、わたしは自分の演技に納得してはいなかった。経路は間違えずに全部回れたし、落馬もしなかったけれど、自分で自分にダメ出しした部分は過去1番と言っていいほど多かった。周りで見ていた人たちも同じだったと思う。気持ち的には惨敗だ。
審判の方々はわたしの知らない人達だったけれど、何故かものすごい慈悲の心を発揮して採点してくださったのだろうと思った。
ただし、採点表にはしっかり悪い点が見抜かれて、観察所見に細かく記入されていたことはここに記しておこうと思う。
【総合観察所見】
「ハミ突き上げで落ち着きがないので、落ち着かせること、扶助に従わせることから始めましょう。」
……本当に、わたしもそう思う。
カウンターで採点表を見つめて、「わーい♪やったー♪ヽ(´▽`)/」と言う気にもなれず、小さな声で「ありがとうございます……」と呟いた。自分でもびっくりするくらい弱々しい声だった。笑顔をつくって「これからも頑張ります」と言ってクラブを後にする。
いつもは競技を終えると、家に帰る前に家族や友人らに「◯位になったよ♪」「合格したよ!」などとメッセージを送っていたけれど、それもできなかった。
この現実をどう捉えていいのか分からず、混乱した状態のまま家に帰り、競技に使った服を洗濯をした後は、長い間こたつで横になっていた。
今日は、今日はもう何も考えなくていい。
とりあえず終わった。
結局わたしは7位だったので、競技会に出るようになってから初めてリボンがもらえなかった。(そして、わたしより下の順位の選手がいたことに驚いた。)
ほんとはね、上手くやりたかったんだ。もっと、ずっと、上手に、カッコよく。
落ち込んでいたけれど、それなりに長い時間を経て、もう一度採点表に目を通した。
できていない箇所も、いっぱいあるけれど。
でも、きっと、この合格は、「ギリギリ最低限のことは出来てると認めるから、この合格に恥じないように頑張りなさい」というエールなんだろうと、思うことにした。
合格にも色々あるんだ、たぶん。
合格にも色々あるんだ、たぶん。
わたしはいつか、胸を張って「1級に合格した」と言えるようになりたいと思った。
今はまだ、取得したものと実力に解離があるような気がするから。
そのために頑張りたいと思った。
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