馬々と人間たち
(2013 / アイスランド,ドイツ,ノルウェー / 上映時間81分)


馬々と人間たち


当ブログに似たタイトルのこちらの映画。

これまで紹介してきた映画とはかなり毛色の異なる馬映画です。

この独特の雰囲気がクセになる人はクセになるだろうな~と,そんなことを感じさせる作品でした。

出演している小型のお馬さんたちは,アイスランド馬という種類の馬なのだそうです。
おとなしくて人懐こい,愛らしいお馬さんです。



【映画の宣伝動画】



【ストーリー】
いくつかのエピソードが交互に語られるような構成になっています。

男性(コルベインという名前らしいです)が愛馬に乗って,交際している未亡人の家に行く話。
その彼らの飼う馬同士の恋のお話(ポスターを見ていただければ,大体お分かりになられるかと)。
愛馬に跨り海を泳いでウォッカを買いに行く,アルコール依存症のヴェルンハルズルの話。
柵を壊して二頭の馬を連れていくグリームルと,怒って彼をトラクターで追うエーギットールの話。
逃走した牝馬たちを追う娘ヨハンナの話。
乗馬観光中に遭難する外国人フアンと老馬の話。
……

馬(または人間)の目が画面に映し出されると次のエピソードに移ります。
それぞれのエピソードは,微妙に繋がっています。
たくさんの馬たち=馬々 と,人間たちの,他愛もない日常とちょっとした事件の数々。


【感想】
まず,映画の最後に,「この映画を製作するにあたり危害を受けた馬はいません」とテロップが流れたことに安心しました。
あまりにもリアルで生々しい馬(と人間)の死のシーンがあるので,「これ,もしかして……何頭か犠牲にしたのかな……」なんて心配になってしまったのです。
詳しい内容は語りませんが,とにかく壮絶なシーンがありました。
ユーモラスな場面(ただし大体ブラックジョーク)も多いですが,現実に見たら,悲鳴を上げそうな内容も容赦なく挿入されています。

でも,ですね。
もしかすると,こういうことは現実にあるんじゃないかな,と感じました。
いや,たぶん,これに近いような現実はきっとある。

それが音楽や,登場人物のセリフや表情などで煽られるでもなく,淡々と画面に映し出されて次に流れていく。
見たくないものを見てしまったような,それでいて,目を離せないような,よくも悪くも力強い映画です。自然は厳しいですね。


ずっと以前に,わたしは司法関係の職場で職員として働いていたのですが,何故かこの映画を見終わった後に,その頃のことを思い出しました。
悲惨な事件や事故がたくさんあり,それに関わる人々や,被害者や加害者の心の叫びを目の当たりにしてきました。まだ十代の終わりから二十代の初めだったわたしは憔悴し,鬱気味になり,当時,こんな詩のようなものを書いたことを覚えています。

「事実はただ,そこにあるだけ」 というタイトルだったような気がします。

「人の怒りや憎しみや悲しみや,やるせなさや,そういったものとは無関係に,ただ静かにそこにある」 という,発見したことを書き記したような内容でした。

なんだか,この発見を彷彿とさせられるような映画だったんですね,この『馬々と人間たち』という映画は。
本当に圧倒的な現実を前にすると,「良いこと」とか「悪いこと」とか,「嬉しいこと」とか「悲しいこと」とか,そういうものがぶっ飛んで,「ただひたすら無心でその現実を見ている」状況が発生するんです。どこかに動揺している自分がいるのだけれど,自分が動揺していることにさえ,そのときは気付かない。そしてその後も,その出来事をどう判断したらいいのかわからない。

この映画,フィクションなんですよね。
フィクションでここまで作れるって,すごいな,と,素直に思いました。
こういう映画は,「面白い」とか「面白くない」とか,そういうんじゃないんです。
ただ,ガツーンと,心で受け止めるものなんです。


なんだか重い感想になってしまいましたが,これはわたしの受け止め方なので,別の方が見たらもっと別の感想を抱くのだと思います。気になっている方はどうぞ見てみてください。(ただし,かなり凄惨なエピソードと,人馬共に生々しい性交描写がありますので,苦手な方やお子様はご注意ください。)
全体的に,大人向けの映画でしょうか。
ただ,山ほど出てくるアイスランド馬は文句なしに可愛いです。
そして,作中ずっと流れている馬の足音が心地よい。

余談になりますが,冒頭の白いお馬さん,なんだか独特な走り方をしているなぁと思ったのですが,そういう4ビートの独自の走法があるらしいです。アイスランド馬だけの走法なのかな? 聞くところによるととても安定した走りなのだそうです。
いつか,アイスランド馬を目にする機会に恵まれればいいなと思います。

公式サイトは こちら馬々と人間たち


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